入院中の想い出

時々、入院中のことを思い出します。1年以上前です。原田病の炎症でぶどう膜炎がなかなか引かないので、急激にひどくなった白内障の手術は延び延びになっていました。通院から8ヵ月後、やっと炎症も治まり、眼圧も平常に戻りつつあると判断した担当医の部長先生がさらに大きな病院を紹介してくれました。引越しの翌日の手術のためてんやわんやでしたが、何とかキャリーケースに入院道具一式を入れて病院ヘ。最初の診察で、黒目とレンズの癒着が激しいので時間がかかるとの事、手術しても視力が戻らない場合があるという事を聞かされていました。入院して、まず最初に右目です。片目づつ、リスクのないように行います。手術後の様子を見て、もう一方をやります。手術室へは車椅子で移動します。手術室に入ると看護士さんが名前を確認します。手術台に横になって、目だけが開いているカバーが付けられます。そして麻酔。確か眼球注射でした。何度かやっていたので、大丈夫です。手術が始まります。局所麻酔なので、先生達のやり取りは聞こえます。通常、十五分ぐらいで終わる白内障手術ですが、1時間40分かかりました。しっかり眼帯を付けられて病室へ帰ります。後日、眼帯が取られ成功が確認でき、翌日には残りの左目です。2回目なので、少し慣れました。こちらも2時間近くかかりました。リラックスしていたとはいえ、左目は右目より見えるほうの目です。少し心配でしたが、こちらも成功です。先生のうれしそうな姿を見て、成功したんだと確信しました。両目の手術が終わって、眼帯も取れました。最初にゆっくり見た景色は、入院中の食堂からの12月のどんよりした曇り空です。階が上のほうにあったので、雲が間近に迫っていました。お日様の光は弱く、外の寒さは容易に想像できます。コーヒーを飲みながら、見ています。そんな風景ですが、とても美しく思えます。垂れ下がる雲の陰影やお日様の光が透けて見える明暗をじっと見ていました。まだ、健常者の方のように見えません。歩くときもぶつからないように、横断歩道でもおっかなびっくりの癖は残っていますが、少し、前進したようです。退院をしたときも、あの日と同じ曇りでした。すれ違う人は寒さから身を守るように身体を小さくしてうつむいて歩いています。私は立ち止まって、空を見上げます。「きれい」と呟いてみました。